第4章:深圳でハードウェアをつくる——人脈はそろっていても、何をすべきかわからない

公開日:2026年6月18日 読了時間:約8分著者:Terrence Wang
第4章:深圳でハードウェアをつくる——人脈はそろっていても、何をすべきかわからない

中国の外にいる人たちが思い描く深圳の姿は、半分は当たっています。

ものづくりの街だということ。スピードが速いこと。部品の調達も、供給業者探しも、工場見学も、試作品の製作も、ほかの場所では何週間、何か月とかかることが、ここなら数日で実現すること。それは、よく知られています。

深圳は、計画よりも速く動く

そのエコシステムは確かに存在し、評判どおりに優れています。MIT Technology Reviewは、深圳を一つの地域にとどまる存在ではなく、世界とつながった地域として描きました。そのとおりです。工場、部品供給業者、サービス事業者、熟練した労働者たちが、何十年もかけて一つの仕組みを築き上げてきました。それは今も、世界のほかのどこかで再現するのが非常に難しいものです。

ただ、その中で実際に仕事を進めるのがどんな感覚なのかは、必ずしも理解されていません。何年もここで働き、人も、仕事のリズムも、近道も知っている。それでも、調子のよい日でさえ、その場その場で判断しながら進むしかないのです。深圳は、どんな計画よりも速く動きます。それが最大の強みであり、油断すると自分の力の限界を思い知らされる理由でもあります。

私たちには、多くのハードウェアのスタートアップにはない強みがありました。Terrence、Elisa、Huilong、そして加わってくれた工業デザイナーたち。全員が、このエコシステムで経験を積んでいました。供給業者との関係も、工場とのつながりもありました。何かがうまくいかないときに電話をすれば、取り繕った答えではなく、本音を聞かせてくれる人たちがいました。製造サンプルの見極め方も知っていました。見た目だけの問題と、発売を頓挫させかねない問題との違いもわかっていました。自分たちは、何をすべきかわかっていると思っていました。大部分は、そのとおりでした。それでも、想定外のことは起きたのです。

3Dプリントのプロトタイプは、出発点であって、答えではありませんでした。3Dプリントから量産できる状態のサンプルにたどり着くまでの工程では、時間が縮んだり伸びたりします。その感覚は、経験するまで説明しにくいものです。予想より速く進むこともあります。やり取りに2週間はかかると思っていた材料選びが、一度の工場訪問で決まる。現場責任者にもっとよい案があり、それが正解だったからです。逆に、遅くなることもあります。モデル上では問題なさそうだった寸法の許容差が、射出成形では実現できず、金型の調整が必要になって、3週間の遅れが出ることもあります。

3Dプリントから量産に向けたサンプルへ

この工程でわかってくるのは、製品の実際の姿です。設計で目指した姿ではありません。実物がどういうものなのかです。もの自体が、意見を持っているかのように語りかけてきます。指定した重さの配分も、実際の材料と寸法でつくると、感触が違う。音響上はうまくいったマイクの配置が、バンドへの取り付けに問題を生む。画面上では理にかなっていたボタンの位置が、手首ではしっくりこない。

そうした発見は、一つひとつが小さな危機であり、小さな学びです。解決するか、受け入れるか、原因となった部分を設計し直すか。それを何十回も繰り返します。そして最後にできる製品は、出発点にあったものよりよくなっています。最初の構想が間違っていたからではありません。実物をつくる工程そのものが、一つの設計行為だからです。

2026年初めに時間を失う原因となった、製造パートナーの切り替えについては、もう少し話す価値があります。工程の途中で製造パートナーを失うと、最初に影響を痛感するのは日程です。その先に予定していたサンプル製作、ベータ版の製造、予約販売の日程、発売。そのすべてがずれます。そしてスタートアップにとって、日程は抽象的な懸念ではありません。資金に関わります。チームの士気に関わります。製品を手にするのを待ってくれている、初期の支援者への約束にも関わるのです。

私たちがつくっているものを信じて登録してくれた、ベータ版のFounding Membersがいました。製品を中心に、コミュニティも生まれつつありました。さらに時間がかかると伝えることを、私たちは誰も考えたくありませんでした。そして、プレッシャーの中で起きがちな間違いを犯しました。考えるのをやめ、とにかく動き始めたのです。

製造パートナーの切り替え

春節が近づいていました。深圳の一年で、最も長く動きが止まる休暇です。工場は静まり返り、サプライチェーンは止まり、みんなが故郷へ帰ります。発売準備の真っ最中にいるハードウェアのスタートアップには、壁のように感じられます。休暇前に終わらなかったことは、すべて休暇明けまで待つことになるのです。

その壁が迫っているのを感じて、私は急がせました。チームを急がせ、日程を前に詰め、戦略を推し進めました。その戦略が正しいのか、立ち止まって問うことはありませんでした。私たちは、知っているやり方に頼りました。予約販売、インフルエンサーへの働きかけ、メディアへのサンプル提供、使い慣れたプラットフォームでの有料広告。どれもAnkerで経験してきたことです。その方法は、ケーブル、バッテリー、充電ドックでは機能していました。実行の仕方はわかっていました。だから、そのまま実行したのです。

広告が配信されました。出てきた顧客獲得単価は、本来あるべき水準をはるかに上回っていました。少しのずれではありません。深刻な高さでした。その数字は、実行の仕方ではなく、その土台となる前提に何か問題があることを示していました。同時に、うまく言葉にできない感覚が、ずっとありました。製品が市場のニーズに合っているかどうか、まだ十分に確かめられていない。答え切れていない問いを抱えたまま、市場に出そうとしている。そんな感覚でした。

何もかもが、しっくりきませんでした。進める速さも、販路や顧客への届け方も、取り組む姿勢そのものも。休暇に入る前日、私はチームを会議室に集め、言わなければならなかったことを伝えました。「いったん、落ち着こう」。諦めるのではありません。事業の方向を変えるのでもありません。落ち着くのです。一歩引く。原点に戻り、自分たちが何を、なぜしているのかを、正直に見つめ直すのです。

いったん、落ち着こう

問題は、Memoketをハードウェア製品として扱っていたことだと、私は話しました。バッテリーやケーブルのように。カテゴリーも、顧客も、市場に届ける道筋も、すでに確立しているもののように。でも、Memoketは、そのどれにも当てはまりません。新しいカテゴリーです。まったく新しいものなのです。最も必要としている人たちでさえ、自分たちに何が足りないのかを、まだ言葉にできていません。もっと速い充電器が欲しいとすでにわかっている人に届けるのと、同じ方法では届かないのです。

誰かに市場投入を急かされていたわけではありません。投資家がドアをたたいて催促していたわけでもありません。期限は、自分たちで決めたものしかありませんでした。ほかのAIウェアラブルが市場に出るのを見て、そのペースに合わせなければと感じる。競争への不安から、自分たちで切迫感をつくり出していたのです。でも、彼らの製品は、私たちの製品ではありません。顧客も、戦略も違います。私はチームに、家に帰るよう伝えました。休んで、しっかり食べて、眠ること。休暇が終わったら、新しい視点と柔軟な気持ちで戻ってきてほしい、と。

戻ってきた私たちは、変わっていました。休暇が何かを解決したからではありません。距離を置いたことが効いたのです。何かに何か月も没頭し、速く動き、反応し、実行し続けていると、それをはっきり見る力を失います。1週間離れたことで、その力が戻りました。改めて見えてきたのは、私たちの手元には本当に新しいものがあり、それを必要とする人に届けるには、本当に新しい考え方が必要だということでした。クラウドファンディングはしない。Amazonには出品しない。従来の小売販路も使わない。確立されたハードウェアのカテゴリーで機能する道は、選ばない。Memoketは、確立されたカテゴリーには属していないからです。市場にはまだ、それを置く棚さえありませんでした。

新しい原則は、「あらゆることを試す」になりました。行き当たりばったりでも、判断を放棄するのでもありません。ただ、これまでずっとそうしてきたからという理由には縛られない。届けるべき人を見つける。その人たちがどこにいるのかを突き止める。そして、どんな形であれ、そこへ行くのです。

まず、外へ踏み出す

その頃、子どもの頃から耳にしてきた広東語の言い回しを思い出しました。「出来行,最紧要系“出来”」。大まかに訳すと、「外でやっていくなら、何より大事なのは、実際に外へ出ることだ」という意味です。ためらうより行動すること、完璧な条件がそろうまで待っても仕方がないことを説く言葉です。いつまでも歩き方を計画している人に、外の世界は報いてくれません。報われるのは、最初の一歩を踏み出す人です。この言葉が、私たちの合言葉になりました。

無謀に動くということではありません。休暇前の数週間のような、焦りに駆られ、方向の定まらない動きでもありません。もっと地に足のついた姿勢です。これまで目を向けていなかった場所で、やったことのないことを試す。ほかの場所で成功した手順という後ろ盾がなくても、踏み出してみる。製品はありました。アルゴリズムもありました。ものづくりを知るチームもいました。今必要なのは、私たちの製品を求めてくれる人たちを見つけることでした。それは、それまでとはまったく別の学びの連続になりました。

中国の製造業の強みは、AIを搭載した消費者向け電子機器の分野で、ハードウェア企業に独自の優位性をもたらします。その速さや規模では、欧米企業の多くが太刀打ちできません。その優位性は確かにあり、深圳で私たちは毎日それを感じていました。ただ、製造の優位性だけで進める範囲には限りがあります。やがて製品ができあがると、もっと難しい問いに向き合うことになるのです。これは誰のためのもので、その人たちをどう見つけるのか。

答えは、知っている販路や接点からは出てこない。私たちは、そのことを学びつつありました。答えは、まだ目を向けていなかった場所にあるはずでした。あとは外へ踏み出し、見つけるだけだったのです。

Memoket Gemが会話を記録することで、あなたは目の前の会話に集中できます。仕組みを見る